—- 【ママ】
ステイシアのたんじょう日パーティが終わり、ステイシアはたくさんのプレゼントといっしょにベッドに入ります。
ネネムも、ステイシアにせがまれていっしょのベッドでねむることにしました。
「ママ、おやすみ!」
「はい。おやすみなさい」
こんなしあわせな日がずっとつづけばいいのに。そんなことを思いながら、ネネムは目をとじました。
◆
小鳥のさえずりで、ネネムとステイシアは目をさまします。
「ママ、いってきます!」
「いってらっしゃい」
ステイシアが学校に向かうのを見送ると、ネネムもお買い物をするために市場へ出かけました。
今日はかわいい一人むすめ、ステイシアのおたんじょう日。帰ってくるまでにケーキとごちそうを用意しなければなりません。
ここは、にぎやかで楽しい大きな町、バンマシティ。
そんな町にあるマンションに、お母さんのネネムと、そのむすめのステイシアが、二人っきりでくらしています。
「あれと、これと、あとそれも――」
ネネムはキッチンであれこれとりょうりを作っています。
サラダ、スープ、ハンバーグ。ステイシアのすきなものがたくさんできあがっていきました。
◆
「ただいまー!」
ステイシアがおなかをすかせて帰ってきました。
両手には、学校のお友だちからのプレゼントをいっぱいにかかえています。
「おかえりなさい」
さあ、たのしいパーティのはじまりです。
◆
「えへへ。おいしいね、ママ!」
「よかったわね」
おいしそうにごちそうをほおばるステイシアを、ネネムはえがおで見つめます。
かわいい子どもがよろこんでいるすがたを見るのが、ネネムにとっては何よりのしあわせなのです。
◆
そうして二人っきりのパーティが終わり、ステイシアはたくさんのプレゼントといっしょにベッドに入ります。
ネネムも、ステイシアにせがまれていっしょのベッドでねむることにしました。
「ママ、おやすみ!」
「はい。おやすみなさい」
こんなしあわせな日がずっとつづけばいいのに。そんなことを思いながら、ネネムは目をとじました。
◆
夜が終わり、またまた朝がやってきます。
「ママ、いってきます!」
「いってらっしゃい」
ステイシアが学校に向かうのを見送ると、ネネムもお買い物をするために市場へ出かけました。
今日はかわいい一人むすめ、ステイシアのおたんじょう日。帰ってくるまでにケーキとごちそうを用意しなければなりません。
◆
町へ出かけようとしたその時、ふと、カレンダーが目に入りました。
カレンダーには、今日がステイシアのたんじょう日であるマークが書かれています。
ですが、カレンダーにはそのマークしかありませんでした。
ステイシアのたんじょう日だけが書かれたカレンダーを、ネネムはふしぎそうに見つめます。
「そういえば、きのうは何をしていたんだっけ……?」
たしか、きのうも、その前の日も、その前の前の日も、ステイシアのためにごちそうを用意したような……?
ネネムはいっしょうけんめいきのうのことを思い出そうとします。ですが、どれだけ思い出そうとしても、きのうのことが思い出せません。
思い出せるのは、今日がステイシアのたんじょう日ということだけ。
ネネムはカレンダーの前で、かたまるように考えました。
◆
「ただいまー!」
そうしているうちに、ステイシアが帰ってきました。
「ステイシア、おかえりなさい」
とびついてきたステイシアをだきとめ、頭をやさしくなでます。
ネネムの中のぎもんはどんどんふくらんでいきました。
「ねえ、ステイシア」
ネネムは決心して、ステイシアの名前をよびます。
「なあに、ママ?」
「わたしたち、ずっと同じ日をくりかえしている気がするの。気のせいかしら?」
ネネムはステイシアにおそるおそる問いかけました。
「ふふ、うふふ。あははははははははは!」
すると、ステイシアは突然けたたましく笑い始めたのです。
◆
「ステイシア……?」
「なあんだ。ママ、もう気付いちゃったのね」
さっきまでとは違う、無感情な声がネネムの耳に届く。
「じゃあ、今回の遊びはこれでオシマイ」
唐突に、ネネムとステイシアを取り囲む景色が溶けていく。
「……あ」
抵抗する間もなく、ネネムは何も無い空間に放り出されていた。
◆
繰り返し繰り返し、ステイシアと名乗る少女によって様々な役を演じさせられていることにネネムは気が付いていた。
どれだけ役を演じたとしても、ステイシアが飽きてしまえば別の役をやらされる。
――大人になれる魔法を使う自分。
――妖精と共に旅をする自分。
――王子様のような素敵な男の子と恋をする自分。
――可愛い女の子のお母さんになって、幸せに暮らす自分。
それらは全てが夢幻だったのだ。だとすれば、自分は一体何者なのだろう。
ネネムは暗闇の中で考えていた、だが、答えが出る筈もなかった。
「こんどはどんなことをさせられるのでしょうかぁ……」
不安が口から溢れ出た。
その不安と共に、意識が闇に飲まれていった。
◆
ネネムが目を開けると、そこはコンクリートに囲まれた薄暗い場所であった。
周囲を見回そうとしても、身体が動かない。声を出すこともできない。
今は何の役も与えられていない。そんな状況に、ネネムは困惑するしかなかった。
ただ、考えることはできた。どうすればこの状況を打開できるのか。
ネネムはそれを必死で考えるしかなかった。
◆
どれ程の間そうしていただろう。ただ、時が漫然と過ぎ去っていく。
不意に目の前が明るくなり、男女の声が聞こえてきた。
「やはり動かないか」
「失敗ですね。グレゴールの時と同じです……」
「私達に足りないものは何なのだろうな」
「わかりません。マスターはその答えを私達に授けてくれませんでした」
「マスターは『考えよ』と仰った。ならば、考えて考えて、考え抜くべきだろう」
「そうですね。マスターが答えを仰らない理由もそこにあるのでしょう」
男女はネネムの前で様々な言葉を交わす。
「これはどうする?」
「失敗作です。倉庫に片付けてしまいましょう」
ネネムの視界が上昇する。男がネネムを抱き上げたのだ。
(やめて! わたしはうごける! おねがい、そうこになんてかたづけないで!)
必死に意思を伝えようとするが、ネネムは一言すら発することができない。
そのまま、ネネムは倉庫へと連れて行かれる。
◆
倉庫には大きな棚が置かれていた。その棚には、無数の人形が所狭しと並べられている。
そして、そのどれもがネネムによく似ていた。
倉庫の人形達はどれも、空虚なガラス質の目で虚空を見つめているだけで、そのことが、より一層不気味に感じられた。
ネネムは倉庫の一角に、他の人形と同じように座らされた。
(これはゆめ! いつものゆめ!)
ネネムは必死に目を覚まそうとする。
だが、ネネムの願いも虚しく、扉は閉ざされた。
そして、ネネムはその暗闇から開放されることはなかった。
「―了―」