05レオン4

3394 【再会】

「嘘だろ」

レオンは我が目を疑った。

「レオンか? こんなところで出会うとはな」

光から出てきたのは、《ジ・アイ》突入後に行方不明となっていた、レジメントD中隊長ミリアンだった。

「生きていたのか、二人とも」

その後に続くのは、同じく中隊付きエンジニアのロッソだった。そしてもう一人、見知らぬ女性が現れた。

「ほかの皆は?」

「俺達だけだ」

ミリアンが答える。

「そうなのか……。 でもよかった、あんた達だけでも無事で」

レオンは改めて右手を差し出して、ミリアンと握手をする。その時、ミリアンの左腕が半分以上無くなっていることに気が付いた。

「戦いの途中でな。 生きて帰れただけ、ましだ」

「話を聞かせてくれないか、皆がどうなったか」

レオンの胸にレジメントとして過ごした日々が蘇っていた。単純に理想に燃え、仲間と共にあった日々が。

「悪いが急いでいる。 話はまた後だ」

「ああ……、わかった」

レオンが頷くと、ミリアンの後ろから若い女が前に出た。

「あなたが助けてくれたのね? ありがとう。レオン……ね」

「ああ。あんたは?」

「私はマルグリッド」

マルグリッドは無表情に答える。ただ、その顔は作られたように美しかった。

「ラームは来ているの?」

「いや、来てはいない。街に戻れば会えるはずだ」

「そう」

マルグリッドは振り返りもせずにそう言うと、先頭に立って歩き出した。

「ここから国境の街までは徒歩だ、急ぐにも限界があるぜ」

「そう。どれくらいかかるの?」

「一週間ってところだ。 運がよければ、街に向かうキャラバンを捉まえられるかもしれんが」

「そう」

レオンには違和感があった。なぜレジメントでないこの女がいるのか。そもそも、どうして彼らだけが生き残ったのか。レオンは疑問を口に出すべきか考えていた。

すっかり夜となり、辺りは暗闇となった。荒野では気温も下がる、レオンは休憩を提案した。

「今晩はこの辺りで休もう。夜にうろつくのはよくない」

「いいえ、まだ進みましょう。 あなたが問題でなければ」

「最低でも一週間はかかる道のりだ、焦っても仕方ないぜ。女のあんたもいるしな。ミリアン、どうする?」

「できるだけ進もう。マルグリッドへの心配は必要ない」

「そうか」

レオンは次に休めそうな場所を思い描きながら、暗闇を再び歩き出した。

暗闇を進む中、レオンはミリアンへレジメントの事を尋ねた。

「ベルンハルトやフリードリヒはどうなった?」

「俺達以外はみんな死んだ」

「《眼》は無くなった。 ってことは、コアは回収できたのか?」

「俺達は敵に囲まれてな、コア回収後に脱出できなかった」

「でも、戻ってこれた」

「ああ、あのマルグリッドに助けられてな」

「あの女、何者なんだ?」

「エンジニアさ」

「お前、どこまでラームから話を聞いてる?」

ロッソが口を挟む

「何をだ?」

「何も聞いてないのか。 なら、それ以上聞くな」

「俺はミリアンに聞いてるんだ」

レオンはロッソに言い返した。

「レオン、もう一度俺達と一緒に戦わないか?」

ミリアンが改めて切り出した。

「戦う? 何とだ? 渦は無くなったぜ」

「レジメントとしてではない。 新しい戦いだ」

「話が見えないな。 何のための戦いだ?」

レオンはミリアンの顔を見た。

「悪いようにはならない。今度は自分達のための戦いだ」

ミリアンの表情は、疲れてはいるものの真剣だった。

「詳しく話を聞きたいところだが……、やめとくよ」

レオンは肩を竦めるようにしてミリアンに答えた。

「面倒ごとには、ちょっと疲れててね」

「そうか」

ミリアンはそう言って前を向いた。再び、全員無言で歩き続けた。

それからの旅は比較的順調だった。互いにたいした会話もなく、淡々と荒野を進んだ。幸いに荒野の怪物達との出会いも無かった。

街まであと二日程度となった日、夜営に選んだのは、ずっと前に捨てられた小さな街だった。最後の水の補給を行い、残りの行程を乗り切らなければならない。

朝になり、井戸の前で水汲みを終えたレオンは休んでいた。そこにミリアンが来て水浴をはじめた。

レオンはその様子に構わず、ぼうっと横になって空を見上げていた。

「レオン、この前の話、考え直してくれんか」

水浴を終えたミリアンが話し掛けてきた。

「アーチボルトに同じように誘われてね。ひでえ目にあったよ」

「あいつは生きているのか」

「ああ、多分ぴんぴんしてるよ」

「ならよかった」

「よくねえよ。あの野郎、こんど会ったらただじゃおかねえ」

レオンは笑いながら答えた。

「お前のためになる話だ。 街に着くまでにもう一度考えてくれ」

ミリアンはそう言いながら上着を羽織った。左腕の傷跡はまだ生々しいものだった。

出発の用意を整えて街を出る間際、レオンが切り出した。

「このまま南へまっすぐだ。ここが水が補給できる最後の場所だ。全部もっていっていい」

水筒を放り投げた。

「どういうことだ?」

ミリアンが聞く。

「別れよう。ここからなら、もうあんた達だけでも問題ないだろう」

「報酬はどうする? いらないのか」

ロッソが言った。

「ラームには借りがあってな。これで貸し借りなしってことだ」

「そう、なら仕方ないわね」

マルグリッドはあっさりと認めた。ミリアンは納得がいかないといった表情をしている。

「じゃあな」

そう言ってレオンは荷物を持ち直し、別方向に歩き始めた。

ロッソが黙って銃を抜き、構えた。

咄嗟にミリアンはロッソの銃を払おうとしたが、その前にレオンは背中から撃たれた。

「なぜ撃った!」

「お前がドジを踏んだからだよ」

ロッソが言った。

「あなたの裏切りがばれたようね。仕方ないわ」

「行きましょう」

マルグリッドは踵を返して荒野を歩き始めた。

「念のために見てこよう」

ミリアンは倒れたレオンの傍に行く。ロッソはマルグリッドについて歩き始めた。

「急所は外れたな。黙っていろ」

レオンにミリアンが話し掛けた。

「……あんたが裏切るとはね」

「腕の傷か……。よく見ている」

ミリアンの腕の傷は、レジメントだけが使うセプターによる傷だった。それにレオンは気付いていた。

「赦してもらおうとは思わん」

「……くたばれ」

「これが俺にできる最後の餞別だ」

ミリアンは銃を構えた。

そして、一発の銃声が荒野に響いた。

「生きていたのか」

ロッソが戻ってきたミリアンに言う。

「苦しませるのは忍びない。元々仲間だ」

「よく言うぜ」

ロッソの皮肉を無視して、ミリアンは歩き続けた。

三人が遠くに去った後、レオンはゆっくりと立ち上がった。ロッソに撃たれた銃弾は幸いに貫通していた。

ミリアンはレオンを助けていた。ミリアンの銃弾は地面に穴を開けただけだった。

「ったく、俺は仲間に恵まれてるぜ」

思わず呟いた。

「このまま終わるわけにはいかねえな」

ゆっくりとレオンは歩き始めた。

「―了―」