41ネネム1

—- 【ふしぎ】

「いってきまーす!」

「気をつけるのよー」

お母さんに見送られ、ネネムは元気よく学校へ行きました。

ネネムは万魔(ばんま)学園に通う、ちょっとおませだけど、ふつうの女の子。

友達に囲まれて毎日楽しく生活していました。

いつものような学校からの帰り道、ネネムは寄り道した公園でよごれてしまったぬいぐるみを見つけました。

「だれかのわすれものかなぁ? でも、このままほうっておけないよねぇ」

ネネムはぬいぐるみを拾って帰りました。

「ただいまー」

「おかえりなさい。あら、どうしたのそれ?」

「こうえんでひろったの。 きれいにできるかなぁ?」

ネネムはお母さんに拾ったぬいぐるみを見せます。

よごれているぬいぐるみを見たお母さんは、ちょっと難しい顔をしましたが、ネネムをおふろ場に連れて行って、ふたりでいっしょにぬいぐるみを洗うことになりました。

「わぁ、かわいい!」

ぬいぐるみをていねいに洗ってかわかすと、ピンク色の毛が愛らしい、ふわふわとしたフェレットのようなぬいぐるみになりました。

きっとこれが元の姿なのでしょう。ネネムも喜びましたが、ぬいぐるみもどことなくうれしそうです。

その日の夜のことでした。

「ネネムちゃん、ネネムちゃん」

ねむっていたネネムを起こそうとする声が聞こえます。

「んー……? ママぁ?」

「ちがうよ、ネネムちゃん。 起きて」

ねぼけたネネムの目に飛びこんできたのは、拾ってきたぬいぐるみでした。

ぬいぐるみはニコニコと笑いながらネネムを見つめています。

「きゃっ!」

「助けてくれてありがとう。ぼくの名前はキャナル。 魔法の国からやってきたんだ」

「まほうのくに? それがどうしてあんなところにいたの?」

ネネムは首をかしげてキャナルに問いかけます。

「いま、魔法の国に大変なことが起こっているんだ。魔法の国とこの世界のみんなの願いをかなえる『願いの星』が悪い魔女にこわされて、この世界に散らばってしまったんだ」

「もしかして、その『ねがいのほし』をもとにもどさないと、このせかいもたいへんなことになっちゃうの?」

「みんなの夢がかなわなくなるんだ。このままだと夢に絶望した人であふれて、世界はほろびてしまう」

「たいへん! わたしもさがすのをてつだうよ!」

「本当!? ありがとう!」

「うん! あ、でも、わたしはまだこどもだから、そんなにとおくへはいけないよ?」

「そうなのか……人間ってけっこう面倒なんだね。そうだ! 魔法の国に伝わる不思議な指輪を貸してあげる! この指輪を使えば、大人になることができるんだ!」

キャナルから指輪を借りたネネムは、さっそくその力を試してみることにしました。

「その指輪をかかげて、なりたい大人や、好きなものを思ってごらん」

「なりたいものかぁ。 そうだなあ……」

ネネムはなりたいものの姿を思いうかべ、指輪を空にかざします。

すると、不思議な光がネネムの身体を取り巻いて、ネネムを大人の姿へと成長させました。

大人のネネムは、お母さんのように白衣を着てメガネをかけています。

「えへへ、ママみたい」

「ネネムちゃん、ひとつだけ注意して。変身する姿をだれかに見られたり、正体がバレたりしたら、ネネムちゃんはダイオウグソクムシになってしまうんだ」

「う、うん。 なんとかムシっていうのになるのはいやだから、きをつけるよ!」

次の日から、ネネムはキャナルと共に『願いの星』を探すことにしました。

小学生と大人を使い分ける日々に、ネネムは大いそがし!

「ネネムちゃん、あっちに願いの星のかけらが!」

願いの星は、かけらとなって色々なところに不思議な力をふりまきます。

人があつかうには大きすぎるその力は、時として事件を引き起こしてしまうのでした。

キャナルはその力の波動をキャッチして、ネネムと共に事件の現場に向かいます。

「まかせて! こういうときは……」

ネネムは指輪にいのり、色々な職業の大人に変身して願いの星を集めていきます。

時には、願いの星をこわした張本人である悪い魔女やその部下と対決したりも。

「ガキが大人の仕事に手ぇだしちゃいけねぇなあ。 おとなしくすっこんでろ!」

「そんなこと、ぜったいにさせないんだから!」

「ヴォランドくんがたすけてくれたの……?」

「え、あ、いや……」

「ありがとう」

願いの星が起こした事件に巻きこまれた幼なじみたちを助けて、ついでに背中をおしてあげたりもしました。

「やったね! ふたりともなかなおりできてよかったぁ」

そして、ついに全ての星のかけらが集まったのです。

「やったね、ネネム。 これで世界は救われるよ! さあ、指輪に願いの星を直すようにたのんで!」

「うん!」

ネネムは、指輪をかかげていのります。

するとその時、指輪の光に呼応するかのように黒い雲が現れて、魔女の形になりました。

「うふふふふ、ご苦労様、ネネム。 まさかこーんなに早く集めるとは思ってなかったわ。時間にして3151446845秒。 だいたい100年って所ね」

「なにをするの!?」

魔女はネネムが一生けん命集めた星のかけらを取り上げます。

「やめて! かえして!!」

ネネムのさけびもむなしく、魔女は願いの星を大きないん石に変えてしまいました。

「もっと長く遊べると思ったのに、つまんないの。せめて2500万年くらいは探してなさいよね」

魔女は不服そうに文句を言うと、いん石を地面にぶつけました。いん石がぶつかったところから、世界がぱらぱらと砂のようにくずれていきます。

「だめ! 指輪さんおねがい!」

ネネムは必死に指輪に願います。でも、指輪はうんともすんとも言わず、色をなくして石のようになってしまいました。

「あはははははは、残念。 フィクションの時間は終わってるのよ」

「ひどい……ひどいよぉ! どうしてこんなことをするの!?」

くずれていく世界で、ネネムはさけびました。

「現実はハードなものなのよ。 次は面白くやって欲しいだけ」

悪い魔女はネネムをあざ笑うだけでした。

「やめて! なんでそんな」

「あはははははははははははははは! さあ、ショーをもう一度始めるわよ」

悪い魔女の笑い声に、ネネムの意識はかき消されていきました。

「―了―」