09マックス3

—- 【LogType:WARN】

……ID:「M00024」

……起動時間:「753414265」

……ログ種別:「WARN」

「くそっ……なんで今頃になって!」

協定違反者は猟銃を構えてマックスを見ていた。

インクジターの標的は、初期の頃からレジメントに所属していた年配の剣士だった。

この男は剣よりも銃の扱いに長けていた。ジ・アイの消滅作戦時には、怪我が原因で後方支援に廻されたために難を逃れており、ジ・アイの消滅後は故郷で猟師を生業にして、ひっそりと暮らしていた。

リジェクトソードを構えると、マックスは標的に斬り掛かった。

攻防の末に、標的は聖騎士の力を発現させてマックスの前から姿をくらませた。

マックスは標的を見失った。

「マックス、標的はまだ外には出ていない。油断するな」

建物の外で標的の脱出に備えているブレイズの通信が、マックスの脳内に響く。

サーモセンサーの感度を上げ、マックスは周囲を見回す。

パンデモニウムが製造した新型のサーモセンサーは、かなりの距離があっても熱源を捉える性能を持っていた。

マックスは過去の記録を参照し、死角からの襲撃に対する適切な対処法を選択しようとする。

マックスの電子頭脳は、一つの記録を選択した。

……ID:「M00024」

……起動時間:「753414265」

……ログ種別:「WARN」

「下だ!」

誰かの声が響く。

地面から霧状の槍がいきなり生え、幾人かの隊員を負傷させた。

「コルベットを守れ!」

「気をつけろ!」

小隊長達の声が鋭く響く。

槍は地面から突き上がってくるが、何処から出てくるかは見当が付かなかった。

「うわっとととと!」

そんな声と共に、誰かに思い切りぶつかられた。

予想していなかったところからの衝撃に、大きくよろめく。

先程まで立っていた場所に、霧の槍が勢いよく突き上がっていた。

「痛ってえ!」

ぶつかられた時と同じ声がした。彼が自分の代わりに槍の攻撃を受けたようだった。

槍は突き出たままだった。そこに向かってセプターを振り下ろすと、地面のものとは異なる手応えを感じた。

セプターに切断された霧の槍は、すっと姿を消した。

状況を確認した小隊長が、負傷者のチェックを行っていた。

「やったな」

「ああ」

幾許かの緊張が消えた隊員に肩を叩かれた。

「ディノ、それとイデリハ。お前達はここでコルベットを守れ」

「了解です」

「ハァ? ここまで来てそりゃねぇよ! 俺様まだ戦えるっつーの!」

先程自分にぶつかってきた隊員だった。見れば足に包帯を巻いており、薄く血が滲んでいる。

「コア回収は激戦になる。軽度とはいえ、足を負傷したお前は足手まといだ」

「納得いかねぇ!」

騒ぐ一人の隊員に、くすんだ金髪の男が声を掛けた。

「落ち着けよ、ディノ。コルベットを守るのも大事な任務だろう。俺達がちゃんと基地に戻れるよう、しっかり守ってくれよ」

「うぐぐぐ、リーズがそこまで言うのなら……」

その一言で隊員は大人しくなった。ただし、表情は納得いかなげなままではあったが。

「行くぞ、コアはもうすぐだ」

小隊長の命に従い、コルベットを後にした。

……ID:「M00002」

……起動時間:「114319」

……ログ種別:「WARN」

黄金時代の遺跡で、小さな金属質のチップを発見した。

自分のメモリーに収められているデータから、そのチップの種類を特定する。

チップは遺跡が作られた年代と同時代のものであることは判明したが、詳細は不明だった。

チップを回収すると、プロトタイプは小部屋を後にしようとした。

わずかな空気の振動にプロトタイプは立ち止まった。プロトタイプの視界に警告文が表示される。

警戒モードに切り替えると、周囲を見回した。

小部屋の先にある通路から、大きな息遣いが聞き取れた。

視界には二つの赤い光が浮かび上がっている。

プロトタイプは仕込み剣を作動させ、戦闘の構えを取った。

赤い光が消え去る。

それと同時に、プロトタイプの視界は地面に落ち、ブラックアウトした。

……ID:「M00024」

……起動時間:「795726189」

……ログ種別:「WARN」

マックスは扉を開け、警備室の一つに入ろうとしていた。扉に手を掛けたところで背中に衝撃を受けたが、意に介することなく振り向いた。

「ちっ、化け物め」

アイザックは銃を仕舞い、剣を手にした。それと同時に、マックスも両手の仕込み剣を出した。

剣に持ち替えたアイザックは、別の部屋に飛び込んでいく。

マックスはゆっくりと歩くと、アイザックが飛び込んだ部屋の壁の前で立ち止まった。

サーモセンサーを起動し、アイザックの居場所を正確に認識する。

そのままアイザックの心臓目掛けて、壁に剣を突き立てた。

アイザックの形をした温度表示が壁から距離を取る動きを見せた。マックスは仕損じたと判断し、部屋の中へと入る。

低い姿勢のまま斬り掛かったが、アイザックは剣の軌道をすんでの所で避けると、マックスの頭に剣を振り下ろした。

「遅いぜ!」

頭部に衝撃が走るが、マックスは動じない。しかし、マスクが外れて地面に落ちた。

「お前は!?」

アイザックはマックスの顔を見て驚いた様子だった。

マックスの頭脳にアラートが走る。仮面の下の顔が曝された場合には自爆するよう、プログラムが施されている。

速やかに自爆シーケンスに移行し、マックスの体内から光が漏れる。

次の瞬間、マックスの身体は爆散した。

部屋のあちこちで炎が上がっていた。

カストードの一人が、自爆後にも残っていたマックスの頭部を拾い上げた。

「これは? フフ……。そうか、このようなことになっていたとはな」

カストードから微かな笑いが漏れた。

「―了―」